気まぐれな春風がたおやかな若木をさざなみのように揺らし、若草が萌えいでる野原のあちこちに木漏れ日が陽だまりを作っていました。
絵に描いたようななごやかな春の日、野花で花かんむりを作ろうと、あの娘は出かけたのでした。
恋をなくした乙女を、何がなぐさめてくれるというのでしょう。太陽のやさしい抱擁、空高く舞い上がるヒバリのさえずり、頬をくすぐるそよ風すら、あの娘の気持ちをなだめられない。花模様のドレスのスカートを草むらに広げ、咲き乱れる花々を思うままに摘み取っては、色とりどりの花弁を散らす。痛々しくも可憐な花かんむりは、去りゆく恋に別れを告げる花々だったのです。
ヘンルーダ、パンジー、デイジー、ローズマリー、ウイキョウ、オダマキ、またヘンルーダ。色失せたあの娘のくちびるが、あだ美しい花ばなに込められた花言葉をつぶやきます。
私のあなた、私はあなたと同じ気持ちだった、あなたは私と同じ気持ちではなかった、そんなあなたを愛したことを悔やんでいる私。
私を思って、と思っていた私。私はずっと思っていた、それがほんとうの私の思いなのかと。
私の純潔な体を包む誠実という名のドレス、それを誰にも剥ぎ取らせはしない。静かな強さが私の鎧、強い意志が私の剣。
花々よ、風に震えるのをやめて。私は必ず手に入れましょう。語り得ないほどの賛美を、永遠の命の輝きを。
スイート・ロビン、愛しい人。さあ、見ててちょうだい。私はあなたのために死んだりしないわ、永遠を生きてやる。
歌いながら花を追い、摘み取るうちに、いつしか小川のほとりへとあの娘はたどり着きました。ほっそりとたおやかな柳の木
が佇んで、萌葱色の若葉のレースに縁取られた⾧い枝を、ゆらりゆらりと揺らしています。浄らかな娘はそれに誘われるまま、
デイジー、イラグサ、キンポウゲ......柳のたわんだ腕にシランの花かんむりを掛けようと、一歩、踏み出しました。ああそし
て、意地悪な柳の枝に拒まれたあの娘の身体は、川面に投げられた花束のように、水の中へと滑り込んでゆきました。ゆらゆ
らと水面に遊ぶ水草のごとく、あの娘の金色の髪がせせらぎに波打つ。今際の苦しみも知らぬ人魚か水鳥か、かすかな喜びを
宿した歌声が流水に交じり、あでやかに広がるドレスの裾は夢のよう。色とりどりの花畑にも似た美しいドレスが、水を吸っ
て重い鉛に変わり、歌声もろともあの娘の身体を水底へと連れ去ってゆく。
あわれ、あの娘の翡翠色の瞳に何が映っていたのでしょう。目の前に広がる澄み渡った空の青が、一気に押し寄せてくるその刹那。やがてゆっくりとあの娘の視界はかすみゆき、すべてが遠くなりました。
悲しまないで、レアティーズ。あの娘はとうとう永遠を手に入れたのです。
あなたの妹は、この先、何度でも甦ることでしょう。あなたも、私も、我が息子ハムレットも、この世を去った何代ものちに、あの娘だけは、静かに強く。